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中国の大学は大躍進、止まらない東大の没落 世界大学ランク46位 日本は「大学村」を破壊せよ

木村正人在英国際ジャーナリスト
東京大学の合格発表(今年3月)(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「2018年世界大学ランキング・トップ1000」が日本時間の5日午後10時すぎに発表され、日本の大学71校がランクインしました。

京都大学は前年の91位から74位にランクを上げたものの、東京大学は順位を7位も下げ、46位まで後退しました。下のグラフを見ると、東京大学のランクがどんどん下がっていることが分かります。

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アジアのライバルは、シンガポール国立大学22位(前年24位)、中国の北京大学27位(同29位)、清華大学30位(同35位)と躍進しています。

日本からトップ200大学に入ったのは東京大学と京都大学の2校だけです。アジアの大学を見ると、いかに中国が実力をつけたかが分かります。

日本2校(前年2校)

香港5校(5校)

中国7校(4校)

韓国4校(4校)

シンガポール2校(2校)

台湾1校(1校)

安倍晋三首相は世界大学ランキング100位以内に10校以上をランクインさせる目標を掲げていますが、アジアの中でも日本の大学は競争力を失い、地盤沈下がさらに目立ってきています。

東京大学のランクが下がったのは主に大学、研究面での収入が減少したことが原因です。この1年間、博士課程の学生の割合、学生と職員の比率、研究の生産性も低下しています。

日本の大学の年間収入は半分以上が政府資金で、04~15年にかけ大学・大学院への政府資金は12%も減少しました。

しかし京都大学や大阪大学はランクをアップさせているので、東京大学の地盤沈下は政府資金のカットだけに責任を押し付けるわけにはいきません。

キングス・カレッジ・ロンドンの医学部で活躍されている大津欣也教授はどうみておられるのか、お話をうかがいました。

キングス・カレッジ・ロンドン医学部の大津欣也教授
キングス・カレッジ・ロンドン医学部の大津欣也教授

―― どうしてここ数年で日本の大学は世界との差を縮めるどころか、こんなに引き離されてしまったのでしょうか

「2014年にランキングの評価方法が変わり東大をはじめ日本の大学ランキングが急落しました。長く20位前後であった東大が43位に転落し、京大も88位に急下降しました。その傾向が現在でも続いています」

「重要な評価項目『論文被引用数』の低下がランキング急落の第一要因です。英語国が有利にならないよう国ごとの補正が行われていますが、14年の変更により地域優遇措置の減弱化が行われました」

「この際、東大の『論文被引用数』スコアが大幅に減少したということは、英語での引用が弱かったと推定できます。しかし大学の実力を正確に表すための改定なのですから、そこでランクを落としたということは、現状が実力だともいえます」

「ランキングの急激な低下は評価基準の変更で説明できますが、危機的なのは2000年ごろより日本の論文数、注目される論文数は停滞し、国際競争力が急激に低下しています。こちらにいると、日本の存在感の低下が著しいことが実感できます」

「中国や韓国に比して、日本からの留学生は非常に少ないのが現状です。国際シンポジウムでも日本人の発表が激減しています。文科省は国立大学を法人化し、運営交付金を毎年減額させながら競争的資金枠を増やす施策をとっています」

「この運営交付金の減少が日本の大学の低迷の原因であるという意見もあります。しかし東大や京大のようなトップ校では運営交付金と競争的資金の合計は決して減少はしておらず、お金の問題だけではないと考えられます」

「ただし、大学への公的研究資金は他の先進国に比して少なく増加していないことから国際競争力の低下に影響しているのは事実です。また近年日本で大型競争的研究資金が導入されており、応用、実用面が重視されすぎ資金が集中する傾向が強まり、研究者が自由な発想で科学研究をするのが難しくなっています」

「また多様な研究分野で世界と戦えなくなっています。最も深刻なのは、研究者の仕事量が増えてきているにもかかわらず、逆に定員が削減され、研究に使える時間(フルタイム換算係数FTE)が減少し、他の先進国に比して大変少ないことです。医学部でも特に診療に割かれる時間は確実に増え、研究に利用できる時間は極端に限られています」

――日本は大学のグローバル化を進めていますが、復活するには何が必要なのでしょう

同

「外国ではランキングが上がることが大学の利益だと考え、トップダウンで改革を進めています。英国ではランキングをいくら上げてきたかが学長選考基準の大きな部分を占めるぐらいです」

「日本でも本当にランキングを重要視するのであれば戦術的に評価項目に対処するしかありません。アジアで日本を逆転したシンガポールや中国の大学では国際性の評価を高めるため学生や教員の国際化を進めることにより『国際化』の評価を上げ、また資金を投入し、海外から優秀な教員を呼び寄せることにより業績を上げるとともに共著論文を増やし、ランキングの『引用』項目での評価を高めています」

「日本では海外からどころか、自大学出身の教授が多数を占めています。東大医学部では教授の公募すらも行われていません。オープンに国内や海外からの学長や教員の積極的なリクルートが必要かと思います」

「またこちらの大学では論文が発行される際には世界中のマスコミにプレスリリースを出します。日本では日本語の新聞やテレビに知らせるのがせいぜいであることが多くこのことが重要評価項目である大学の評判に大きな影響を出します」

「英語での広報の充実が急務です。また人文系の論文は日本語で書かれることが多くそれが『論文被引用数』の評価を大きく下げています。これらを機関で英文化することも必要かと思います」

「文科省もスーパーグローバル大学創成支援を通してグローバル化を目指していますが、世界ランキングは上がっていません。支援をもらった大学は責任を取るのが当然と思います。責任問題を明らかにすることによりランキングを上げようとする大学の本気がでてくるのではないでしょうか?」

「もちろん見かけだけではなく真の国際競争力を高めることが肝要です。日本の大学では教授がボスでありスタッフは独立した研究者ではありませんが、欧米のように20代、30代の若手研究者が自立する体制を作るべきであります」

「応用、実用に偏りすぎた大型競争的研究資金よりは限られた研究費を国際的に勝負できるあるいは可能性のある若手研究者が行うブレークスルー型研究費に十分に投資すべきです」

「また研究費の審査は日本の村社会で行われていますが、申請書を英文化することにより世界中の科学者に査読してもらい公正な審査が行われるようにすべきと思います。さらにFTEを研究と教育や診療に分け研究部分を充実させるべきと思います」

「そのためには事務や技術員などの間接スタッフを充実し研究のFTEを確保すべきです。近年、海外留学が減ってきています。私どもの大学で日本から大学院生を採用しようとしても研究費ではEU内の学生しか採用できず、日本からの資金が必要です」

「しかしながら日本政府が出すほとんどの海外留学奨学金は海外から日本に学生を呼ぶものです。日本人が海外の大学院で学位を取得する奨学金を大々的に立ち上げ国際的科学者を養成すべきと思います」

「日本の貴重な財産は、人材です。今まで色々な国で教育に関わってきましたが、日本人の優秀さは特筆すべきものです。それを生かさなければ日本の未来はないと思います」

日本の大学ランキング

18年(前年)大学名(〇はスーパーグローバル大学トップ型指定校)

46(39)東京大学〇

74(91)京都大学〇

201‐250(251‐300)大阪大学〇

201‐250(201‐250)東北大学〇

251‐300(251‐300)東京工業大学〇

301‐350(301‐350)名古屋大学〇

351‐400(351‐400)九州大学〇

401‐500(401‐500)北海道大学〇

401‐500(401‐500)東京医科歯科大学 (TMDU)〇

401‐500(401‐500)筑波大学〇

501‐600(N/A)藤田保健大学

501‐600(401‐500)首都大学東京

601‐800(ランク外)会津大学

601‐800(601‐800)千葉大学

601‐800(501‐600)広島大学〇

601‐800(601‐800)順天堂大学

601‐800(ランク外)香川大学

601‐800(601‐800)金沢大学

601‐800(601‐800)慶應義塾大学〇

601‐800(601‐800)神戸大学

601‐800(601‐800)高知大学

601‐800(601‐800)熊本大学

601‐800(601‐800)名古屋市立大学

601‐800(601‐800)岡山大学

601‐800(601‐800)大阪市立大学

601‐800(601‐800)東京農工大学

601‐800(601‐800)東京理科大学

601‐800(601‐800)早稲田大学〇

601‐800(601‐800)横浜市立大学

801‐1000(801位以下)中央大学

801-1000(601-800)愛媛大学

801-1000(ランク外)電気通信大学

801-1000(801位以下)岐阜大学

801-1000(ランク外)浜松医科大学

801-1000(801位以下)法政大学

801-1000(801位以下)岩手大学

801-1000(601-800)慈恵医科大学

801-1000(ランク外)鹿児島大学

801-1000(ランク外)関西医科大学

801-1000(601-800)近畿大学

801-1000(ランク外)北里大学

801-1000(ランク外)京都工芸繊維大学

801-1000(801位以下)九州工業大学

801-1000(801位以下)明治大学

801-1000(ランク外)三重大学

801-1000(ランク外)宮崎大学

801-1000(801位以下)長岡技術科学大学

801-1000(601-800)長崎大学

801-1000(601-800)名古屋工業大学

801-1000(ランク外)奈良医科大学

801-1000(601-800)新潟大学

801-1000(801位以下)大阪府立大学

801-1000(801位以下)立命館大学

801-1000(ランク外)佐賀大学

801-1000(801位以下)埼玉大学

801-1000(801位以下)埼玉医科大学

801-1000(ランク外)滋賀医科大学

801-1000(801位以下)島根大学

801-1000(601-800)信州大学

801-1000(801位以下)静岡大学

801-1000(801位以下)昭和大学

801-1000(801位以下)上智大学

801-1000(801位以下)東海大学

801-1000(601-800)徳島大学

801-1000(801位以下)東京海洋大学

801-1000(801位以下)富山大学

801-1000(601-800)豊橋技術科学大学

801-1000(601-800)山形大学

801-1000(801位以下)山口大学

801-1000(601-800)山梨大学

801-1000(801位以下)横浜国立大学

世界大学ランクトップ50校

2018年(前年)大学名

1(1)オックスフォード大学、英国

2(4)ケンブリッジ大学、英国

3(2)カリフォルニア工科大学、米国

3(3)スタンフォード大学、米国

5(5)マサチューセッツ工科大学、米国

6(6)ハーバード大学、米国

7(7)プリンストン大学、米国

8(8)インペリアル・カレッジ・ロンドン、英国

9(10)シカゴ大学、米国

10(9)チューリッヒ工科大学、スイス

10(13)ペンシルバニア大学、米国

12(12)イェール大学、米国

13(17)ジョン・ホプキンス大学、米国

14(16)コロンビア大学、米国

15(14)カリフォルニア大学ロサンゼルス校、米国

16(15)ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、英国

17(18)デューク大学、米国

18(10)カリフォルニア大学バークレー校、米国

19(19)コーネル大学、米国

20(20)ノースウェスタン大学、米国

21(21)ミシガン大学、米国

22(24)シンガポール国立大学、シンガポール

22(22)トロント大学、カナダ

24(23)カーネギーメロン大学、米国

25(25)ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、英国

25(25)ワシントン大学、米国

27(27)エディンバラ大学、英国

27(32)ニューヨーク大学、米国

27(29)北京大学、中国

30(35)清華大学、中国

31(41)カリフォルニア大学サンディエゴ校、米国

32(33)メルボルン大学、オーストラリア

33(33)ジョージア工科大学、米国

34(36)ブリティッシュコロンビア大学、カナダ

34(30)ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ドイツ

36(36)キングス・カレッジ・ロンドン、英国

37(36)イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校

38(30)スイス連邦工科大学ローザンヌ校、スイス

38(28)カロリンスカ研究所、スウェーデン

40(43)香港大学、香港

41(46)ミュンヘン工科大学、ドイツ

42(42)マギル大学、カナダ

43(45)ウィスコンシン大学マディソン校、米国

44(49)香港科技大学、香港

45(43)ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク、ドイツ

46(39)東京大学、日本

47(40)ルーヴェン・カトリック大学、ベルギー

48(47)オーストラリア国立大学、オーストラリア

49(50)テキサス大学オースティン校、米国

50(51)ブラウン大学、米国

50(57)セントルイス・ワシントン大学、米国

以下はアジア・太平洋の大学トップ200校

52(54)南洋理工大学、シンガポール

58(76)香港中文大学、香港

61(60)シドニー大学、オーストラリア

65(60)クィーンズランド大学、オーストラリア

74(91)京都大学、日本

74(72)ソウル大学校、韓国

80(74)モナシュ大学、オーストラリア

85(78)ニューサウスウェールズ大学、オーストラリア

95(89)KAIST 、韓国

111(137)成均館大学校、韓国

111(125)西オーストラリア大学、オーストラリア

116(155)復旦大学、中国

119(119)香港城市大学、香港

132(153)中国科学技術大学、中国

134(142)アデレード大学、オーストラリア

137(104)浦項工科大学校、韓国

169(201-250)南京大学、中国

177(201-250)浙江大学、中国

182(192)香港理工大学、香港

188(201-250)上海交通大学、中国

198(195)国立台湾大学、台湾

アジアの大学3校がトップ30に入ったのは初めてです。

世界大学ランキングのフィル・バティ編集長は次のように話しています。

「東京大学の世界大学ランキングの継続的な下降は心配です。中国、香港、シンガポールといった他のアジア地域の一流大学が、継続的な資金レベルの高さもあり一貫してランキングを上げているため、東京大学はさらに下降傾向にあります。今年は、香港大学と香港科学技術大学に追い抜かれました。東京大学は主要なグローバルプレーヤーであり続けるには、資金調達方法を多様化する必要があります」

「今年の中国の台頭は目覚しいものであり、世界の高等教育の状況の変化を示しています。13年のランキング史上で、中国から2大学がトップ30に入り、中国の一流大学は今や世界のエリートに仲間入りし、米国、英国、ヨーロッパの有名大学を追い抜いています」

世界のトップ大学がひしめく英国では世界中の頭脳を確保するため、恐ろしいほどの勢いで大学に資本が投じられています。一方、日本では少子化による人口減少で大学ビジネスの成長が期待できず、大きな投資を呼び込めていません。

世界の大学・大学院の学生数はこの10年で倍増しており、大学には大きなビジネスチャンスがあります。日本はまず「大学村」の文化を破壊して、世界に門戸を開かないと、アジアでの存在感すら失ってしまうでしょう。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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